-- Survey of Emission Line Objects with H-alpha and H-beta Filters--
水素輝線天体におけるバルマー減衰サーベイ計画
問題意識
近年、国際的にガンマ線バーストや背景星の変光を利用した重力レンズの検出など、突発天体の冷却CCDカメラによるサーベイ的観測が多く実施されるように
なり、未解明の現象の観測に成果が上がっている。さらに副産物として多数の変光星が発見されるなど多くの成果をあげている。これらのプロジェクトに共通し
た特徴は、より暗い天体を写すために使用するフィルターは広い波長域に渡っている。 今回の計画は、これまで誰も実施していない狭帯域バンドパスを持った
水素のHα輝線による恒星の撮像モニターリング観測である。Hα線は、宇宙で最も普遍的な水素原子が放つ強いスペクトル線であり、
恒星大気の活動や新星など爆発天体においても最も特徴的な変化を示すことが知られている。このHα線でサーベイを行えば、バンド幅が狭いため高いS/N比
でHα線関連現象を検出できる。検出が期待される既知の突発現象・変光天体としては、銀河系内の新星・Be星などの輝線星・フレア星など多くの種類があ
る。これらの記録をデータベースに保存しバイアスのかかっていない均一なサンプルを得るが第1の目的である。そのデータから長期間のHαバンドでの変光の
様子や突発天体の出現頻度の統計的議論が可能になる。さらに、副産物として未知のHαフラッシュ現象を検出できる可能性も密かに期待している。
本年度の研究実施計画
今回の計画では、Hα干渉フィルター(中心波長660nm、半値幅12nm)をつけた焦点距離100mmのカメラレンズを小型冷却CCDカメラに取り付け
る。中心波長を静止系におけるHα線の波長(656.3nm)から長波長側へ少しずらす。これは、天体の爆発に伴う輝線は地球に接近する側の物質による自
己吸収のため輝線の青側が吸収され、輝線の中心波長が長波長側へシフトすることに対応するためである(波長660nmは、既製品のバンドパス干渉フィル
ターは10nm毎であるため、Hα線をカバーする最も近い波長)。バンドパスが比較的広いのは、比較星として利用する通常の恒星のデータをより大きな信号
で得るためである。できるだけ広い天域をサーベイするために、望遠鏡としては短い焦点距離を使う。 これらの撮像系を、すでに自費開発した自動測光望遠鏡
の赤道義へ同架し、あらかじめプログラムされたスケジュールに従って自動掃天を行う。撮像した画像は、データベース内へ納め、自動で変光の様子を検出す
る。これらの一連の処理を行うソフトウェアは自分で開発する。
今年度は、観測システムの製作と一連の観測に必要な露出時間や掃天域の選定なと試験観測を行いながら、プロジェクトを見極め、年度末までに自動観測がなさ
れるところまで持って行くことを目標とする。世界的に見ても、これまで冷却CCDカメラによる広範囲の天域のHαモニタリングはなされていないので、これ
らの試験観測の過程で得られる知見は貴重な統計的データとなるであろうと予想される。なお、フレアやフラッシュなど再現性のない天体現象を検出する場合の
信頼性を向上させるための工夫として、同一視野に向けた二組の装置を同時に用いて観測したいが、これは予算の関係で次年度以降の検討課題とする。 今回の
申請では、この計画を実行するために必要な費用の内、干渉フィルタの購入とデータ整理用謝金および学会発表用旅費にあてる予定である。
測光バンドと検出限界の見積もり
RバンドフィルターとHα干渉フィルターの2バンドの画像を使う場合
2つのバンドの光量の比較
フィルターの透過曲線の面積を比較すると、R-bandフィルターは202、半値幅12ÅのHαフィルターでは15となる。
面積比で7.4%、等級差に直すと、
-2.5*log(15/202)=2.82 mag
同じ露出時間では、約3等の違いがでる。 ほぼ同じカウント数を稼ぐには、Hαではおよそ13倍の露出時間が必要。
Hα輝線の変動の検出
例として、等価幅10ÅのHα輝線(弱輝線T Tauと古典的T Tauの境目)の検出を考える
半値幅120Åのフィルターを使うとして、Hα輝線が0から100%まで変化する場合
-2.5*log(130/120)=-0.087 mag
の変化になり、測光精度内で十分検出できることがわかる。
検出限界は、測光精度0.03等とすると、等価幅10Åの輝線の1/3以上の変化
Rバンドだと同じ輝線変動に対して
-2.5*log(1630/1620)=-0.0067 mag
の変化しかない。
従って、HαバンドとRバンドの2枚の画像をセットで撮像して
Rでは変化が検出できなくて、かつ、
Hαバンドで明るくなった天体は、輝線が変化したためとみなすことができよう。
CCDカメラが2台あれば、HαバンドとRバンドを同時に撮像すれば、短時間のタイムスケールの変化でも検出できるが、
当面は予算の関係で1台のCCDカメラを使い、交互にフィルターを替えて、その1対の撮像に要する時間以上のタイムスケールを持った現象を捉えるしかな
い。
(フレアー星のような短時間変動の検出は当面あきらめる)
Hαフィルターの設計
1.Hαフィルターの半値幅
元の波長をλÅ、視線速度をv m/sとすると、ドップラーシフト量⊿λは
⊿λ=λ・v/c
=6563*v/3e8=2.19e-5*v
新星の爆発速度v=1000km/s=10^6m/sとして、後退側の出す光は
⊿λ=22Å だけ red shiftする。
v=2000km/sだと44Åシフト
輝線のFWHMも同様の速度に対応して幅が広がるとすると、フィルターの赤い側のカットオフ波長は6563+44+22=6629&
angst;より長波長側に
伸びていることが望ましい
メモ
マルチキャビティー型干渉フィルター(DIF-BPF)
MIF-W型の金属ハーフ膜をそれぞれ誘電体多層膜に換えた構成のフィルターで、マルチキャビティー型とも呼ばれている。透過率が高く、A・B・C型とは
逆に半値幅が広い全誘電体干渉フィルターのパンドパスフィルターである。1・2・3・4・5型と5タイプあり、順に半値幅が広くなっているので
用途によって使い分けられる。http://www.opto-line.co.jp
※規格寸法:15・20・30・40・50mmφ、50mm□
BPE-2型 最大透過率(%) 中心波長に対する半値幅のおおよその比率(%)
600〜699 ≧70 2.5 660*0.025=16.5nm
BPE-3型
660-699 4.7 660*0.047=31nm
干渉フィルターにおける入射角と中心波長シフトの関係
誘電体多層膜の屈折率n=1.2として 入射角10度(視野20度)だと
660*(1-((1.2*1.2-(sin(10))^2)^0.5)/1.2)=6.9nm
同じくn=1.2として 入射角3度(視野6度)だと
660*(1-((1.2*1.2-(sin(3))^2)^0.5)/1.2)=0.63nm
n=1.4として 入射角3度だと
660-(660*(1.4*1.4-(sin(3))^2)^0.5)/1.4=0.46nm
となる。この程度の長波長側へのシフトを考慮して、中心波長と半値幅を決める必要がある。
冷却CCDカメラ
SBIG社のST-9EXを使うとする
CCDチップ 20μ角
100mmレンズだと1ピクセルあたり
20e-6/(100e-3*3.14)*180*3600=41.27秒角
視野は41.27*512/3600=5.87度
赤道上360度を、70枚でカバーすると、5.14度/フレームになる。
東西方向のオーバーラップは
(5.87-5.14)/5.87=12%
となる。ST-9XEは、ガイド用CCDのためのミラーのけられがあるので、この値は適当である。
Decl. | equi.degree | NoOfFlame | deg/flame |
0 | 360.00 | 70 | 5.14 |
2.5 | 359.66 | 70 | 5.14 |
5 | 358.63 | 70 | 5.12 |
7.5 | 356.92 | 69 | 5.17 |
10 | 354.53 | 69 | 5.14 |
12.5 | 351.47 | 68 | 5.17 |
15 | 347.73 | 68 | 5.11 |
17.5 | 343.34 | 66 | 5.20 |
20 | 338.29 | 66 | 5.13 |
22.5 | 332.60 | 64 | 5.20 |
25 | 326.27 | 64 | 5.10 |
27.5 | 319.33 | 62 | 5.15 |
30 | 311.77 | 62 | 5.03 |
32.5 | 303.62 | 59 | 5.15 |
35 | 294.90 | 59 | 5.00 |
37.5 | 285.61 | 56 | 5.10 |
40 | 275.78 | 56 | 4.92 |
42.5 | 265.43 | 52 | 5.10 |
45 | 254.56 | 52 | 4.90 |
47.5 | 243.22 | 47 | 5.17 |
50 | 231.41 | 47 | 4.92 |
52.5 | 219.16 | 43 | 5.10 |
55 | 206.50 | 43 | 4.80 |
57.5 | 193.44 | 38 | 5.09 |
60 | 180.01 | 38 | 4.74 |
62.5 | 166.24 | 32 | 5.19 |
65 | 152.15 | 32 | 4.75 |
67.5 | 137.78 | 27 | 5.10 |
70 | 123.14 | 27 | 4.56 |
72.5 | 108.27 | 21 | 5.16 |
75 | 93.19 | 21 | 4.44 |
77.5 | 77.93 | 15 | 5.20 |
80 | 62.53 | 15 | 4.17 |
82.5 | 47.00 | 9 | 5.22 |
85 | 31.39 | 9 | 3.49 |
87.5 | 15.72 | 3 | 5.24 |
90 | 0.02 | 3 | 0.01 |
869枚
CCDカメラの視野
視野中心(Alpha、Delta)における視野の端の座標は、
端1(2.93,2.93),端2(2.93, -2.93),端3(0,-2.93),
端4(-2.93, -2.93),端5(-2.93, 2.93),端6(0,2.93) in Degree
に対応する
各座標に対応する方向余弦(X,Y,Z)に対して、
座標軸を
Z軸の回りに反時計方向へ(-Alpha)、
Y軸の回りに反時計方向に(-Delta)
回転させた(X',Y',Z')に相当する。
|X'|
|X|
|Y'|= Ry(-Delta) Rz(-Alpha)|Y|
|Z'|
|Z|
Drift Scanを使うと
日周運動 赤道で15秒角/秒
1ピクセルに留めるためには 41.27/15=2.75秒間
日周運動で星が512ピクセルを横断する時間は
41.27*512/15=1408秒間 1408/60=23分間
露出3秒、読み出し1秒 保存に3秒とすると
1408*3/7=603秒=10分間露出に相当 200枚
1画面4フレーム3分間かかるとすると
北天半球だけで3*869=2607分=43時間
観測可能なのは1日8時間とすると5。4日
全天の分解能
赤道帯で40秒角=40/15=2.66秒時
2秒時の分解能として
24*60*30=43200
赤緯+60から-30まで90度
90*60*60/30=10800
その空間分割数
43200*10800=466,560,000
今のところの予算
収入
科研費補助金 230,000
小暮先生からの研究支援 300,000
私費 760,000
---------------------------------
計 1,320,000
支出
フィルター(Hα・Hβ・Hβ用コンティニウム) 260,000
冷却CCDカメラ ST9EX 440,000
フィルターホイル 300,000
自動制御用パソコン 100,000
エンコーダ改造(購入部品) 150,000(エンコーダ+USB開発システム+機械系改造)
赤道儀自動格納庫製作費
300,000?
-----------------------------------------------------
計 1500,000
その後の進捗状況
6月Star Name | H-beta(Left) | H-alpha(Right) |
A | 12486 | 18472 |
62 Cyg (V=3.72, B-V=+1.65, K4.5Ib-II) | 133956(22976@peakPixel) | 727023(54852@peak) |
B | 4099 | 11814 |
C (~9mag) | 1041 | 3302 |
57 Cyg (V=4.78, B-V=-0.58, B5V) | 103885 | 98037 |
56 Cyg (V=5.04, B-V=+0.20, A4mDel Del) | 66164 | 87064 |
60 Cyg (V=5.37, B-V=-0.21, B1Ve) | 61158 | 56037 |
Sky | ~130 | ~320 |